禁断の味を知る
タローが初めて犬用のジャーキーを口にしたのは、横浜に来て間もなくのことでした。
いつも立ち寄る公園で出会ったおじいさんが、胸ポケットからジャーキーを取り出し、「はい」とくださったのです。
モグモグ、ごっくん。
このときのタローの顔が忘れられません。人間のようにしゃべることが出来たら、きっとこう言っていたと思います。
「こ、こんなに美味しいもの、初めてでしゅ!!」。
お座り姿勢のまま、タローはおじいさんに近づきました。「お口に合いましたか?」
おじいさんが再び胸ポケットに手を伸ばすと、見事にぺったらなタローの横顔から涎が滴ります。
ハル婆やの制止も構わず、タローはごっくん。ほとんど噛まずに飲み込んでいるじゃありませんか!
まだ日の高い初夏の夕刻、おじいさんがくださったジャーキーとの出会いは、タローに至福をもたらしました。
以来、好物だったキャベツの芯をあげようとしても、彼はプイと横を向く始末。
きっと「こんなもの、食べられますか!」と言いたかったのではないかと。トホホ。
父親がオヤツとして彼に与えていたのは、森乳サンワールド製のビスケット、蒸かしたサツマイモ、キャベツの芯の3種類だけでした。
タローの飼い方に関して、この点だけは父親に脱帽です。
飼い主がハル婆やに替わって、ジャーキーに始まり、彼は禁断のオヤツの味を次々と知るようになります。
人間が食べる物を犬に与えると、味が濃くて癖になるからよくない。もちろん解っていましたが、ハル婆やと連れ合いは守れなかったです。
果物や焼くか蒸かしたサツマイモ、食パンの耳、どら焼きや肉まんの皮などを、自分たちが食べるとき、ついついあげてしまいました。
果物はビタミン、さつまいもは食物繊維が豊富だし、主成分が小麦粉のパンの耳や皮なら、さほどカロリーや塩分は高くないだろうと言い訳をしながら。