三者合意のもとに その2 13歳にして手術を初めて経験する
東京は計画停電などもありましたが、幸いにしてトホホな飼い主が住む地域は実施を免れ、例年通りに桜が咲き、タローも無事に13歳を迎えました。
彼の地は日常を取り戻すなど程遠い、混乱や悲嘆の日々を送られていたことを思うと、申し訳ない気がしました。
平穏な毎日を過ごしていましたが、5月に入ってから、タローが食事のドライフードを残すようになりました。
食欲がないというよりも、噛みにくいか飲み込みにくいかで完食を諦めてしまう。
そんな感じです。
さっそくかかりつけ医へ相談に行きました。
話を聞き終えた医者は、嫌がるタローの口を手際よく開け、指を中に押し込むと、何かを確かめているようです。
そのままの姿勢で話を始めました。
「歯がだいぶ傷んでいますね。歯石がこびりついてしまい、人間で言えば歯槽膿漏がかなり進んだ状態です。こんな状態でよくドライフードを食べていたな……」
別に責めたつもりではないのでしょうが、〝ダメ飼い主〟と烙印を押されたようで、正直、凹みましたよ。
けれど、そんなことはおかまいなしに説明は続きます。
「麻酔を打って駄目な歯は抜き、歯石を取り除くしかありません。そうすれば、また元気よく食べるようになりますよ」
そして、手術を行うのは年齢的にギリギリだと告げられました。
「麻酔を打って」というフレーズに私が反応したのを見逃さなかったのでしょう。医者は、「もちろん麻酔に耐えられるか、事前に心電図をはじめ全身状態のチェックを行い、手術中も気管挿管して呼吸を確保しますよ」と付け加えたのです。
費用は5万円かからないとのこと。その場で結論は出せず、「連れ合いと相談してから返事します」と答えました。
帰り際、「お湯でふやかせば、ドライフードももう少し食べやすくなるかもしれない」とアドバイスされ、いくらか安堵しました。
さっそく歯石取りの手術経験がある犬友への聞き込み開始です。
同時に、麻酔の事故について自分なりにインターネットで調べたりしました。結果、やはり手術してもらうことに。
去勢手術もしていないので、13歳のタローにとって初の手術体験になります。
手術日の朝、かかりつけ医に彼を預けると、「午後3時頃には終わると思いますが、麻酔が覚めたら、こちらから連絡しますので、お迎えに来てください」とのこと。
割と落ち着いて聞けたような気がします。
何気なく、「先生、頭と前脚にある小さなイボも取ってもらえますか?」とお願いしました。
普段、痛がることもなかったけれど、麻酔をかけるついでに、と思った次第です。医者は突如の申し出にもかかわらず、それぞれの場所を確認し、了承してくれました。
しかし、ついでに取ってもらった、1ミリ未満の2つのイボの正体が、とんでもないものでした。
もっとも聞きたくない言葉、「悪性腫瘍」だったのです。