パグ犬 タローが教えてくれたこと

生命の危機を何度か乗り越え、快食・快便、20歳に向け順調な日々を送っていたパグ犬タロー。それが、たった一日食べなくなって……。愛犬との日々を振り返りながら、老犬との暮らし、介護のヒントにもなればと考えています。

三者合意のもとに その3 これ以上の手術は希望しません!!

手術後の頭部

“小さなイボ”と思ったものは、実は悪性の腫瘍でした(手術後の写真)

5月17日、朝9時にタローを動物病院へ連れて行き、家で手術が終わるのを待ちました。

午後3時過ぎ、そろそろ手術が終わる頃です。
身支度をしながら、財布の中身を確認している最中に電話が鳴りました。
待ちに待った、お迎えの連絡です。病院に着くと、かかりつけ医がこう切り出しました。

「抜歯と歯石取りの手術は無事に終わりましたが、イボのほうにちょっと問題が……。正確な診断は病理に出してからになりますが、十中八九、肥満細胞腫という悪性腫瘍ではないかと思います」

嘘でしょ!?

「青天の霹靂」という言葉がありますが、まさにそんな感じでした。
にわかには信じられず、呆然としている飼い主に、まるで追い打ちをかけるような厳しい内容が続きます。

「残念ながら、腫瘍を完全に取り除くことはできませんでした。肥満細胞腫を想定していなかったので、麻酔時間が足りなかったんです。肥満細胞腫は再発の可能性がとても高く、今のところ外科手術しか治療の手段がありません。化学療法はあまり効き目がないと言われています。病理の結果が出るのは1週間後です。その時までに、今回取り除けなかった部分も含め、再手術をするかどうか、今後の治療方針を決めておいてください」

検査報告書1
検査報告書2
「病理組織検査報告書」の実物。肥満細胞腫であることが明らかに

 

処置室から転げるような勢いで、元気よく出てきたタローを抱き上げ、「きっとこれは悪夢を見ているに違いない」と自分に言い聞かせながら、帰路につきました。

それからは深夜までパソコンに向かい、「肥満細胞腫」に関する情報を読み漁る毎日。

連れ合いも調べていて、2人とも偶然に海外の獣医が発表した、やや古い論文に辿りつきました。

それは大雑把に言えば、「犬における肥満細胞腫は皮膚病みたいなもの」というもの。

がん細胞がどこまで浸潤しているか考慮すべきところですが、まったくの素人考えで、全身症状に至るまでにはもう少し時間がかかる、と判断したのです。

麻酔をかけて何度もメスを入れることと、がんの進行速度とを鑑みて、再手術は行わないと決めました。
まだ若ければ、できる限りの手を尽くしたいとも思いましたが、すでに13歳を迎え、今のところ痛みはなさそうだし、食欲もある。

タローの生命力にかけてみようと思いました。

手術から1週間後、術後を診てもらうため、かかりつけ医を訪ねました。まずは気がかりな病理検査の結果から聞きます。自然と両手をギュッと握っていました。

「2ヵ所とも、やはり肥満細胞腫でした。再発の可能性はありますが、幸い血管やリンパへの転移は見られません。腫瘍のできた場所が良かったのかもしれない。頭部も前脚もすぐ下は骨でしたから」

説明を聞きながら、連れ合いと私、2人が下した判断は案外、いい線いっているかも――そんな思いを強くしました。

手術に「no」

タローも手術に「noーーーーー」 ここに三者合意が成立しました

再手術はしない旨を伝えると、獣医は同意してくれました。

「おっしゃるように彼の年齢を考えたら、その選択肢も十分にありうると思いますよ」。

 大いに気を良くした私は、調子に乗って確かめようもないことを尋ねました。

「先生、タローはどう思っているでしょうかね?」

すると間髪入れずに答えが返ってきたのです。

「間違いなく、これ以上の手術なんて断固拒否!! ですよ」

これにて獣医と飼い主、タローの三者合意によって、再手術はしないと決まりました。

だよね~~。散歩の途中で動物病院へ行くことに気付いたら、踵を返して方向転換する。
意に反して病院に入ってしまっても、出入口の前に陣取り、隙あらば逃げ出そうとする。
診察中、獣医に背を向けたまま目を合わせようとしない。

タローの気を引こうと獣医がオヤツを差し出しても、プイっと横を向く。
病院嫌い、医者嫌いが徹底しているんですから。

肥満細胞腫という悪性腫瘍を抱えたまま生きていくことを決めた帰り道、私の心は妙に軽くなり、タローの足取りは……いつもと変わりませんでした。