三者合意のもとに 番外編 良い悪いは隣り合わせ
タローが歯石取りと抜歯の手術を受ける際、麻酔事故などが起きないように、心臓や血液など全身状態をチェックしてからとのことでしたが、結果いかんによっては、手術自体を取り止めることもあると告げられました。
当日、そんなことになったらイヤだな~と思っていたら、獣医から「13歳にしたら上出来です」と検査結果のコピーを手渡されたのです。
ちょっと驚きの表情を浮かべながら。
当時の明細書と突き合わせて、再びコピーを見たら、心電図のほか血液検査に血清生化学検査、尿検査をやっています。
ことに血清生化学検査は、人間で言えば、いわゆる健康診断で血糖値やら悪玉コレステロール、γ-GTPなどの数値が示される血液検査、アレと似たようなものと思えばいいでしょうか。
なるほど、当時13歳のタローの検査結果は、どの項目も正常値でした。ワンコの13歳と言ったら、人間なら50代から60代にかけての立派なオジサンです。
血液検査で何項目かが引っかかること、よくありますよね。
彼は心電図、血清生化学検査、血液検査、尿検査はすべてクリアしているけれど、それでもがん細胞に蝕まれていたなんて……。
たまたま肥満細胞腫のできた場所がリンパの近くではなく、血液管にまで浸潤していなかったのが、本当にラッキーでした。
そう、単純にラッキーなだけだったのです。なのに、この時の検査結果にトホホな飼い主はすっかり慢心してしまい、彼が小型犬の平均寿命へ近づいていることに、慎重さを欠いてしまいました。
わずか2年後、15歳の時に腎臓病を発症したのです。この話はまた別の機会に……。
ALB→アルブミン
血液中のたんぱく質の1つで、血液の浸透圧のほか、栄養状態や肝・腎障害、腸疾患などの指標にもなる。
ALKP(ALP)→アルカリフォスファターゼ
誘導酵素の1つ。誘導酵素とは何かが生じた時に連動を受けやすい酵素のこと。この数字が高いと、真っ先に疑われるのが肝臓病や副腎の病気と言われる。
ALT(GPT)→アラニントランスフェラーゼ
この数値が上昇していると、肝臓の細胞が壊れていることを示す。
BUN→血中尿素窒素
腎機能に問題があると上昇する。
Ca→カルシウム
カルシウム濃度を示し、高くとも低くとも何らかの疾患が原因となる場合がある。
CHOL→総コレステロール
肥満や肝臓病、ホルモン異常などによって上昇する。
CREA(Cre)→クレアチニン
腎機能に問題が生じると上昇する。
GLOB→グロブリン
血液中に多く含まれるたんぱく質で、数値が低ければ免疫異常、高ければ慢性炎症や腫瘍などが疑われる。
GLU→血糖値
糖尿病のほかストレスでも上昇する。
TP→総たんぱく
血液中のたんぱく質の総量を示す。よってALBとGLOBとを合わせて評価する。
食べることは生きること、だよね~~
季節の変わり目って、体調を崩しやすいですよね。人間だけでなく、犬も同様です。
タローも冬から春へと季節が移る頃、19歳の誕生日を迎える1カ月ほど前、
「もうダメか……」
と覚悟する事態に陥りました。
2、3日くらい前から少し食欲が落ちてきたなと感じてはいましたが、体調によって彼自身自ら食事量を調整する節があったため、もう1日様子を見てみようと――。
そしたら、あらららら。まったく食事を口にせず、水分もほとんど摂らなくなってしまいました。
呼吸はやや深く荒くなり、ゼロゼロと喘鳴のような音がする……。
おそらく熱も出ていたでしょう。
翌日、慌ててかかりつけ医に診てもらうと、
「白血球がとても高い。どこかに炎症があるせいだけど、どうも肺や気管支ではなさそう。抗生物質を投与して、それが効いてくれれば……」。
獣医の厳しい表情から、タローの容態がただならぬことを知りました。
「19歳の誕生日、なんとか迎えさせてあげたいね。明日は休診日だけど、朝9時に連れて来られる?」。
先生の言葉に大きく頷きながら、抗生物質と輸液の注射をしてもらうため、寒の戻りで真冬並みの低温が続く中、連日、動物病院へ通い続けました。
入院させなかったのかって? それはまったく考えませんでした。
もちろん最悪のケースも頭をよぎりましたが、彼の最期は自宅で看取りたいと思っていたので、病院に預ける選択肢はなかったですね。
8日目のことです。
目覚めたタローに水を飲ませようとしたら、容器を持っていた私の指をペロペロと舐めました。
試しに彼の口に指を入れたら、食べ物と間違えたのか、噛もうとするじゃありませんか!これは食欲が出てきた証拠です。
思わず「やったー!!」と叫びました。
さっそく獣医に報告すると、シリンジで缶詰のペースト状高カロリー食をゆっくりと与え始めました。
タローの喉元がゴックン、ゴックンと上下に動きます。シリンジ1本分をむせることなく平らげたのを見届け、
「これで一安心。タロー君、頑張ったね」と喜んでくれました。
初めての流動食、トホホな飼い主の手作りでしたが、抵抗なく食べ始めたタロー爺さんは4月19日、無事に19歳の誕生日を迎えることができたのです。
寒さ暑さはもとより、恋のシーズンでも食欲旺盛。
はたまた嘔吐や下痢をしても、出した分をまるで取り戻すかのように食べていたタロー。
1週間もの長い間、何も食べなかったことなど、彼の犬生において一度もありませんでした。
彼の寿命をつないだのは、間違いなく食べることへの執念、食べられなくなったときのトラウマ(笑)、だったのではないかと思います。
いつか、必ず、終わりは訪れる
11月23日はタローの祥月命日です。
彼が旅立ってから丸3年が経ちました。
社会的には勤労感謝の日、祝日ですが、私たち夫婦はそれぞれにタローがいた日々を懐かしみ、手を合わせます。
普段はどうしているかって?
連れ合いはまた犬を飼いたいと言い募り、一方、婆やは近所に住む実父の介護に追われ、正直「新しくワンコを迎えるのは無理」と感じていました。
なにしろ365日毎日、日に数度、一人暮らしの父親のもとへ通わなくてはならなかったからです。
父親は要介護3の認定を受け、限度いっぱい介護サービスを使っていました。
それでも認知症を患っているため、90歳を過ぎた父の生活は、3度の食事の支度やデイサービスへの送り出しなど、娘である私がサポートしなくては立ち行きません。
トホホ。
ところが今年の夏、父親が運よく近くの特別養護老人ホームに入所することが出来たのです。
ラッキーーー!!
ようやく1日24時間を自分のためだけに使えるんだ。自由を満喫してやる、そう思いました。
まず旅行に出かけたい、映画や美術館にも行きたい。気になるテーマの講演会やイベントを覗いたり、錆びついた頭に油をさすため講習会へ通ったり、あるいは曜日や時間を気にせず友人と会っておしゃべりをしたーい。
……なんとも間が悪いですよね。
せっかく自由の身になれたというのに、今年は新型コロナウイルスが世界的に大流行しているじゃありませんか!! 収束の気配はなく、旅行もイベントも、友人との会食もままならないwith covid19の日常が待ち受けていました。
いろいろ考える時間が増えたせいか、最近、タロー爺さんが亡くなった日のことをよく思い出します。
なぜ彼はあんなに吠えたのだろうか?
死が目前に迫っているのに、あれほど力強く、まるで叱るかのように吠えたのは、何か理由があったような気がしてなりません。
ペットが永遠のお別れするとき、一週間ぐらい前から食欲がなくなり、飼い主さんの呼びかけにも弱々しく反応するというイメージを勝手に抱いていましたが、タロー爺さんは違いました。
前々日から排尿の量は減ったものの、食事量が落ちることはなく、特に変わった様子は見られなかったのです。
11月23日、突如として毎日のルーティンが崩れました。
目を覚ますたびに、激しく吠え立てるタロー爺さん。外へ連れ出し排尿を促しますが、いっこうに出ません。
昨日まで口にしていた食事はもちろん、好物の生クリームさえ受けつけない。
「いったい、どうすりゃいいのさ!?」
困り果てた記憶が蘇ります。
けれども翌日になり、かかりつけ医に診てもらえば何とかなる。ピンチを何度か踏み止まってきた彼だから、今度も大丈夫とタカをくくっていました。
既に異変が起きている19歳と7カ月の老犬を目の前にして、です。
今は、ハッキリ分かります。あの時のタロー爺さんは「もう逝くからね。今度こそ、お別れだよ!!」と言いたかったのだと。
それなのに「20歳まであともう少し。今度も無事に切り抜けようね」などと、どこまでも能天気な飼い主に対して、「命あるものは必ず死ぬ。いい加減に覚悟しろよぉ」と気づかせたかったのではないか――。
そんな気がします。
19歳の誕生日を迎えられたのは本当に奇跡的なことでした。彼にすれば、それ以降はオマケの日々だったのかもしれません。
当時のタロー爺さんのつぶやきが聞こえるようです。
「20歳って軽く言ってくれるけど、まだ5カ月もあるんだよ。人間なら、あと2年近く生きなきゃならない計算だろ? いっぱい食べたし、いっぱい寝たし、いっぱい散歩もした。もう思い残すことないなー。じゃあね」
大事な鼻が〝地層〟と化す!?
ワンコの健康状態を知る目安の一つに、鼻があります。
「鼻が濡れていれば元気な証」ということ、聞いたことありませんか?
タローを飼うまでは、私もそう思っていました。
ところがタローを飼ってみたら、確かに若いうちは黒々と湿り気を帯びていましたが、成犬となり、7、8歳頃になると頻繁に瘡蓋(かさぶた)が出来ていたような……。
パグ犬は鼻の上の溝に垢が溜まると悪臭を放つため、彼が小さい頃は鼻の周囲もおでこのシワと合わせて、気がつけばお手入れしていましたけれど、
いつの間にか手抜きするようになっていたんですね。トホホ。
なぜ、「鼻が濡れていれば元気な証」と言われるのでしょうか?
検索してみたら、匂いを感じやすくするために、犬の鼻は濡れているのだとか。
加えて熱を放出して体温調節をする、という役割もあるそうです。
濡れている状態を保つからには、体の中から自然と分泌される仕組みになっているのだろうと推測したら、やはりそうでした。
涙が目の表面を守るために分泌されるように、涙成分と汗のような成分が混じり合った分泌物が、常にワンコの鼻を濡らしているみたいです。
そのほか、「自分で舐めて濡らすこともある……」。
という文言を目にして、大いに合点しました。タローはよーく鼻を舐めていたんですよ。
目が覚めたらペロペロ、ご飯を食べたらペロペロ、オシッコの匂いを嗅いではペロペロ。
ことに大好きなワンコの時は、まるで「しびれるぜぇ」と言わんばかりに、鼻をペロペロしながら体を小刻みに震わせるのです。
しかも恍惚の表情を浮かべながら!!(笑)。
タローの変態ぶりはともかくとして、しょっちゅう鼻を舐めていたにも関わらず、
彼の鼻は湿り気を取り戻すどころか、繰り返し繰り返し瘡蓋が生じました。
犬友から「タロちゃん、お鼻を怪我したの?」と尋ねられるくらい、ぺちゃんこ鼻全体を覆う大きさまで成長することもありました。
よく見ると、その瘡蓋も何層かに重なっているではありませんか!!
取ろうとすると、タローは顔を激しく振って嫌がります。
我が家ではそれを〝地層〟と名付け、放っておきました。自然に剥がれ落ちるのが分かったからです。だけど鼻に瘡蓋のない期間は短く、また新たな〝地層〟が形成されます。
ワクチン接種のためか何だったか、かかりつけの獣医を訪れた時のことでした。タローを抱えて処置室を出てきた獣医が、済まなそうな顔をして言いました。
「タロー君の鼻を綺麗にしてあげようとしたら、瘡蓋状のものは取れましたが、血が滲んでしまいました。いちおう消毒はしてあるので心配ないと思います」
鼻の瘡蓋を取って欲しいと頼んだ記憶はありませんから、おそらく以前から気になっていたのでしょう。
今にも崩れ落ちそうなほど、盛り上がっていたのかもしれません。
瘡蓋の痕跡に血がうっすら滲んでいるなんて、ワンコの鼻には血管がたくさん集まっていることがよく分かります。
犬の嗅覚は人間の1億倍という説もあり、そんな大事な器官を〝地層〟と化すほど放ったらかしにするとは、やっぱりトホホな飼い主ですね。
「お役御免!!」となりました
ここのところ気温の変化が激しく、体調を崩されたりしていませんか?
5月も後半に入ったというのに4月、3月並みの気温という日が続き、我が家ではガスファンヒーターを点けました。
ということは……
お察しの通りです。まだストーブ類を片付けていない‼ まったくハル婆やのトホホぶりは、タロー爺さん亡き後も変わりません。
我が家は昭和30年代に建てられた古い日本家屋だからか、断熱材が入っていないうえに気密性も悪く、冬本番となればまさに底冷えがします。
エアコンの暖房だけでは、とてもじゃないけど室内が暖まらない。ガスファンヒーターに加えて、寒がりのタローの居場所の真ん前に石油ファンヒーターを設置していました。
しかもタンクの容量が9リットルという大型ストーブ。
乾燥は甚だしいけれど、ガスファンヒーターに石油ファンヒーターのダブル暖房なら、気密性が低い日本家屋でも10畳くらいの部屋が十分に暖まりました。
問題は、タローが石油ファンヒーターの前で、思いっきり「ブルブル」をすることです。
彼がブルブルをすると、大量の毛が舞い上がります。
パグ犬は短毛種*1*2ですが、1つの毛穴から上毛と下毛が数本生えているダブルコート*3*4だから、1年中かなりの量の毛が抜けるんです。
堪らないのはストーブのほうでしょうね。
こまめに掃除をするならまだしも、ズボラなハル婆やですから、何年かすると目詰まりを起こして、数台の石油ファンヒーターが使えなくなりました。
最後まで彼の居場所を暖めてくれたのが、先に述べた大型タイプです。
このストーブ、実はいちばんの古株で、灯油タンクを納めるところの上蓋が完全に閉まらない。
点火したり消火する時、灯油の臭いにけっこう閉口するものの、10年以上働き続けました。機能がシンプルだったのも幸いしたのでしょう。
タローが死んだ11月23日、既にこのストーブを使っていたと思います。
彼は寒い思いをせずに旅立ちました。
そして年末から新年を迎え、桜の開花予想に春の訪れを感じるようになった翌年3月頃、突然、ストーブがこと切れたのです。
まるで役目を終えたと言わんばかりに。
いつもより少し丁寧に掃除をして、この石油ファンヒーターを粗大ゴミに出しました。
*1:犬は毛の長さによって「短毛種」と「長毛種」とに分かれます。前者は1~2㎝くらいの短い直毛に覆われていて、パグのほかラブラドールレトリーバーやビーグル、柴犬ほかの日本犬などです。
*2:一方、後者は直っすぐ、あるいはカールした長い毛をもち、シーズーやポメラニアン、ゴールデンレトリーバー、ヨークシャテリアなどが代表的です。なおチワワやダックスフンドは、短毛種と長毛種の両タイプがあります。
*3:主に皮膚を保護するための上毛(オーバーコート)に対して、下毛(アンダーコート)は体温を調整する役目があると言われています。上毛しかはえていない場合をシングルコートと言い、上毛と下毛が1つの毛穴から数本生えているのをダブルコートと呼びます。
*4:ダブルコートの犬種は春・秋の換毛期になると、下毛が抜け替わることで体温調整をするわけです。抜け毛が多いのは難儀しますが、ダブルコートの犬にとっては大事な生理作用だったんですね。シングルはたとえ長毛でも密生しておらず、あまり毛が抜けません。定期的にトリミングをする必要のある犬種、たとえばトイプードルやシーズー、ミニチュアシュナウザーなどが該当します。