パグ犬 タローが教えてくれたこと

生命の危機を何度か乗り越え、快食・快便、20歳に向け順調な日々を送っていたパグ犬タロー。それが、たった一日食べなくなって……。愛犬との日々を振り返りながら、老犬との暮らし、介護のヒントにもなればと考えています。

桜の木の下で① かろうじて成立している命

桜をバックに

桜をバックに踏ん張ったタロー爺さんの雄姿?

獣医師から
「小型犬だと15歳の誕生日を迎える子は少なくないけれど、満16歳を迎えられる子は少なくなる」という話を聞いた翌年の春、
連れ合いは桜を背景にタロー爺さんの姿を写真に収め、スマホの待ち受け画面にしました。

獣医師の話には続きがあります。

「それだけ16歳を過ぎたら、いつ何が起きても不思議じゃないんです」

15歳と9カ月のとき、慢性腎不全を発症しながらもタロー爺さんは17歳となり、腎臓の状態を示す数値も落ち着いていたので、実を言うと、ハル婆やはすっかり慢心していたのです。

犬友と「もしかしたらタローは不死身かも……」なんて軽口を叩いていただけに、獣医師の言葉は正直、ショックでした。

今、タローがこうして生きているのは、絶妙なバランスの上にかろうじて成立しているだけで、それを維持していくことはとてつもなく難しいのだと、思い知りました。

それでも無事に満18歳前の桜の季節を迎えることができ、桜とタロー爺さんとを再び画面に収めます。

連れ合いは「これが最後かも……」とつぶやきながら、待ち受け画面を更新していました。写真の中のタロー爺さんはたった1年しか経っていないのに、ずいぶん年老いた感じです。

19歳になる前の3月、これといった前兆もなくタローが突然、体調を崩しました。
発熱して息も荒く、食事も水も受け付けません。
祈るような気持ちで毎日々々、抗生物質を注射してもらいました。

痩せこけたタロー

すっかり痩せてしまったものの、自力で立つ。桜のパワーか

1週間が経ち、ようやく危機を脱した彼を連れて、何回となくお花見をした公園に立ち寄りました。
久し振りに土の感触や草の匂いを味わってもらおうと思い、彼をカートから降ろしました。
ほとんど花は散っていましたが、タロー爺さんは四肢で土を踏みしめ、桜の木の周囲をクンクン。
思わず声をあげてしまいました。
「うわっ、歩けるじゃん!!」

風が出てきたので、タロー爺さんを抱き上げてカートへ。心の中で話しかけました。
「ずいぶん軽くなったね。1週間、食べてないもんね。帰ったら、ご飯食べようね。お腹いっぱい食べようね」。

ゆっくりゆっくりカートを押しながら、公園を後にします。

彼の丸い頭の上に、桜の花びらが舞い降りてきました。

頭上に桜の花びら

カートでうつ伏せになった頭の上には、なんと数枚の桜の花びらが

 

桜の木の下で② “花より団子”の面目躍如

主なきステージ

桜の季節が訪れても、雄姿? の主の姿はない


満開から花冷えの日が続いたおかげで、平成最後の東京の桜は、お花見の時期が長く続いています。
桜の便りが聞かれる頃になると、寒さも和らぎ、なんとなく浮き浮きした気分になりますね。

でも花粉症を患うハル婆やにとって、タローが生きていたときは恨めしくもありました。
なにしろ彼の朝夕の散歩を終えると、鼻がムズムズして くしゃみを連発し、ヒリヒリするほど鼻をかみ、ボーっとした日々を過ごすのが常でしたから。

そういえば動物も花粉症を発症するらしく、ニホンザルが目をゴシゴシこすったり、くしゃみをする映像を目にしたことがあります。

満開の桜

桜の盛りはまた、花粉症の季節でもあるのです

タロー爺さんはどうだったかなぁ。

彼がくしゃみをすると、顔がバイアスに歪んで、不細工な顔がますます不細工になると大笑いしたことは覚えているのですが、そのくしゃみは花粉症によるものだったのかどうか――。

花粉症はさておき、桜の季節になると思い出すことがあります。
彼がまだ小さい1、2歳の頃、散歩の途中によく小石を拾い食いしていました。
満腹中枢が壊れていて年中空腹感があるのか、はたまた歯が生え替わる時期でむず痒かったのか、理由はよく分かりません。

口の中から小石を取り出そうと格闘するものの、彼も歯を食いしばって抵抗します。
その頑固さに手を焼きました。

桜を食す

好物はソメイヨシノ

もう少し大きくなった3、4歳の春のことです。
ふと気がつくと、タローは地面に落ちた桜の花びらを一心不乱に口へ入れているじゃありませんか!!

待てよ……桜の花びらならいくら食べてもカロリーは低いし、飼い主の懐も痛まないよね。
小石を食べるよりずーっとマシでしょ!!
体への影響もほぼほぼないだろうと考え、好きなだけ飽きるまで食べさせました。
“花より団子”の面目躍如たる、まさにタローらしいエピソードです。

味の違いが分かるのかどうかは不明ですが、桜以外の花びらは口にせず、桜もソメイヨシノ以外、たとえば八重桜の花びらはお気に召さないのです。

あんなに食いしん坊だったのに不思議、と言えば不思議でした。 

禁断の味を知る

オヤツ欲しさに見上げる

散歩中は、オヤツ欲しさに見上げるポーズを、頻繁に繰り返しました

タローが初めて犬用のジャーキーを口にしたのは、横浜に来て間もなくのことでした。
いつも立ち寄る公園で出会ったおじいさんが、胸ポケットからジャーキーを取り出し、「はい」とくださったのです。

モグモグ、ごっくん。


このときのタローの顔が忘れられません。人間のようにしゃべることが出来たら、きっとこう言っていたと思います。

「こ、こんなに美味しいもの、初めてでしゅ!!」。


お座り姿勢のまま、タローはおじいさんに近づきました。「お口に合いましたか?」
おじいさんが再び胸ポケットに手を伸ばすと、見事にぺったらなタローの横顔から涎が滴ります。
ハル婆やの制止も構わず、タローはごっくん。ほとんど噛まずに飲み込んでいるじゃありませんか! 

まだ日の高い初夏の夕刻、おじいさんがくださったジャーキーとの出会いは、タローに至福をもたらしました。
以来、好物だったキャベツの芯をあげようとしても、彼はプイと横を向く始末。
きっと「こんなもの、食べられますか!」と言いたかったのではないかと。トホホ。 

父親がオヤツとして彼に与えていたのは、森乳サンワールド製のビスケット、蒸かしたサツマイモ、キャベツの芯の3種類だけでした。
タローの飼い方に関して、この点だけは父親に脱帽です。

オヤツを見せて「待て」

オヤツの「待て!!」のときの集中力がスゴイ(笑)

飼い主がハル婆やに替わって、ジャーキーに始まり、彼は禁断のオヤツの味を次々と知るようになります。

人間が食べる物を犬に与えると、味が濃くて癖になるからよくない。もちろん解っていましたが、ハル婆やと連れ合いは守れなかったです。
果物や焼くか蒸かしたサツマイモ、食パンの耳、どら焼きや肉まんの皮などを、自分たちが食べるとき、ついついあげてしまいました。

果物はビタミン、さつまいもは食物繊維が豊富だし、主成分が小麦粉のパンの耳や皮なら、さほどカロリーや塩分は高くないだろうと言い訳をしながら。

しかし、近年の糖質制限ダイエットを持ち出すまでもなく、限りなくエビデンス*1は薄いですよね。トホホ。

*1:証拠、根拠、証言、形跡などを意味する「evidence」に由来する外来語。「エビデンスがある」と言えば、一般的には「科学的根拠、裏付けがある」ということを意味します

ベンツ印のワンコ服

ワンコ服俯瞰

偽ベンツブランドを着せらえたタロー

服を着たワンコをよく見かけます。
小型・中型犬用はデザインも多種多様なので、飼い主さんもついつい着せたくなるのでしょう。

これに対して、服の着用を拒否するワンコ、もしくは飼い主のことを最近、”裸族”と称するようです。

天然の毛皮を着ているわけだから、ハル婆やもどちらかと言えば、タローに洋服を着せることには消極的でした。
ただ、雨の日の散歩用に、レインコートだけは早くから用意していましたが……。


タローが5、6歳の頃だったと思います。ホームセンターから戻ってきた連れ合いが、
嬉しそうに「タローの服を買ってきたよ。ワゴンセールで安かったんだ」とのたまうじゃありませんか!! 

連れ合いチョイスの服を見て、気絶しそうになりました。地のオレンジ色に緑色のトリミング。そこに白で星条旗の☆を並べ、今どきほとんど見聞きしたことのない「LOVE&PEACE」の文字とピースマーク。

これを着せるの? タローが初めて着る服なのに?!

やだ、ヤダ、嫌ですぅー!!

しばらくの間、この服を着せて散歩に行く勇気が出ませんでした。

すると連れ合いは「パグ犬はこのくらいインパクトのあるほうが似合うよ」ですと。

早朝から日差しの強い真夏、タローと横書きした濡れタオルを体に巻き付け、散歩させていた犬ですから、
型破りな装い!(苦笑)にも慣れているっちゃあ、まあ慣れていますけどね。

それにしても……です。

LOVE&PEACE」の服を着せて散歩に出るときは、顔見知りのワンコと会うのを避けてコースを選んでいました。

ワンコ服を着て散歩する

大胆な着こなし? で闊歩するタロー

ビルに挟まれた小さな小さな児童公園。
ここは近隣の会社員が一服するのに利用されていて、ほかのワンコと遭遇することが滅多にありません。

猫か何か動物の匂いが残っているのか、タローはいつものようにクンクンと嗅ぎまわります。

茂みの傍に立つ会社員の足元もお構いなしです。休憩中の会社員に恐縮しながらタローの後を追いかけていると、30代くらいの男性が遠慮がちに話しかけてきました。

 

「これって、有名な車のブランド服ですか?」

意味が理解できずに私はポカン……。
えっ、えーっ!!
もしかしてピースマークと高級車ベンツのマークとを間違えている??

と気づいたら可笑しくてしょうがありません。

「やだー、そんなことあるわけないですよ。これは棒が一本多いでしょ?」

「そ、そうですよね。アハハ。いやー、よく似合ってます」。

お兄さん、そりゃないでしょ!! トホホ。

ワンコ服2

以後はハル婆やが服選択係になりました

 

長生きの秘訣① 食事編 市販のドッグフードで満足

タロー爺さん、なまじ19歳と7か月も生きたものだから、よく皆さんから聞かれます。

 

「どんなふうに育てたの?」
「何を食べていたの?」
「小さい頃から丈夫だった?」

 

うーん、正直言って特別なことは何もしていません。
食事については市販のドッグフードのみ。ショップで与えていた「ユーカヌバ」のラム&ライスを続けて食べさせました。
肥満が気になり始めると、そのライトを。
高齢期になったらシニア用を。

一時、脂肪分控えめの国産フードに変えたこともありますが、基本的に彼はどんなフードもよく食べたので、食事で困ることはなかったです。

ご飯大好きなタロー

最期まで食べることに貪欲でした

むしろ食欲を抑えるのが大変!
成犬になってからも1日2回の食事を欠かしたことがありません。
下痢をしても、普段通りにドッグフードの食事を平らげます。

パグ犬は満腹中枢が壊れていると主張する知人がいましたけど、タローを見ていると「確かに、そうかもしれん」と感じました。

シーズン中の♀犬に出会って匂いを嗅いだら、周囲の♂犬は食欲がなくなると言っていましたが、タローはまったく関係なし。
そんな訳で、犬友からあらぬ疑惑をかけられたことも。

「もしかして……?」
いえいえ、匂いを嗅ぐとちゃんと興奮はするんです。去勢手術していませんから! でも、なぜか食欲まったく落ちなかったのです。

匂いを嗅ぐタロー

♀の匂いにも敏感でしたが食欲が落ちることはナシ!!

手作りフードは1回だけ試みたことがあります。
肥満が気になり始めた頃、キャベツと鶏肉のササミとを茹でて薄味に仕上げたものを食べさせてみました。
そしたら、こともあろうか下痢をしたんです。

え、えーっ? タロー、どういうことよ!

嘔吐はしなかったので、丸1日様子を見ました。
下痢はすぐに治まったものの、かかりつけ医に報告したら、「おそらく腸内細菌のバランスが崩れていたんじゃないのかな」とのこと。

この一件以来、手作りフードはこりごり!!

だから、まさか介護食を手作りすることになろうとは、夢にも思いませんでした。

ヒルズのサイエンスダイエット

最晩年はヒルズのサイエンスダイエット・高齢犬用に

手作りフードを強く薦める獣医師さんもいらっしゃるようですが、多くのドッグフードは栄養価が高く、バランスもいい。
その食事を与えることで犬の平均寿命が延びたという話を耳にしたことがあります。

不味いと言われるダイエットフードさえ、がつがつと食べたタローの場合、手作りフードかドッグフードかは、あまり関係なかったみたいですね。